自然素材のぬくもりは本物の建築から生まれる

古来より、数千年の長い月日をかけて、日本人が作りあげてきた日本建築は、木を木のまま使い、土を土のまま使う工夫や知恵があり、それが環境や風土に適合し、人々の生活や健康を守ってきました。

 

それは竪穴式住居や高床式倉庫のネズミ返し等、多くの知恵とその時代に適した住居で暮らしてきた時代からうかがい知ることができます。

 

それには材の特性を知る「知識」と、材を扱う「技術」、そして時代の流れを感じる必要があります。

 

「自然素材」=「自然由来の素材」

「自然素材」という言葉は、ここ数年で建築業界内だけでなく一般の方も、メディアや広告を通じて、触れる機会が多くなってきたのではないでしょうか。

 

「自然素材の家」とは文字通り、家を建築する際に自然をいかした材料を建材として使用する事を指してます。

 

しかし「自然素材」という単語ばかりが広がってしまい「自然由来の素材」っていったいなんなのか?

という部分が抜け落ちているように感じます。

 

また、それは一般の方々だけではなく、専門の造り手である建築士や建築会社、職人達さえも良く理解ができてないのが実情です。

 

その一例として珪藻土(けいそうど)があります。

最近、流行っている「珪藻土マット」のあれです。

珪藻土(けいそうど)は、藻類の一種である珪藻の殻の化石よりなる堆積岩。ダイアトマイトともいい、珪藻の殻は二酸化ケイ素(SiO2)でできており、珪藻土もこれを主成分としている。

 

一般的には室内の壁に珪藻土を塗る場合が多く、湿気を調整してくれ、健康的な生活が保障されたかのような宣伝文句がよく使われています。

 

しかし、実際の珪藻土製品は、樹脂などの化学製品である接着剤などを混入し、色を付ける為に一度焼成し、燃えカスに石油系の着色をしているのがほとんどです。

 

本来の珪藻土は、素材の色のまま切り出され、削り出し、彩を変え性能を得るのが特徴です。

 

全国で珪藻土は採取出来ます。

しかし、地域や採取する地層によっても成分が違い、それはそのまま性質の違いにもなるのです。

 

あくまでも珪藻土は土なので、多種の鉱物が混ざり合い珪藻土となるため、性能も均一ではないのが現実です。

 

かりに珪藻土自体に性能があったとしても、それを人工的に生成された材は既に自然素材ではありません。

それはいうなれば、性能も著しく変質してしまった材なのです。

 

それは言葉だけのまがい物であって、本来素材がもつ性能はどうなるのか想像するまでもありません。

 

他にも樹脂入りの漆喰をベニヤ合板の上に塗り、火山灰や貝の粉末に樹脂を入れた壁塗材など、自然素材とは名ばかりの材が溢れかえっているのが現状の「自然素材」の実態です。

 

ただ、これが悪いということでは決してありません。

日々進化している技術の中でそういうものがうまれるのがごく自然なことだからです。

 

日本で自然と共に住むということ

 

◇木材について

木は太古の昔から建物だけでなく、道具や燃料として用いるなど人々の暮らしには欠かせない素材と言えます。

国土交通省発表のデータによると、現存する住宅(建物)のうち全体の約6割が木造で、戸建に限ると約9割が木造建築物になります。

 

世界を見渡しても日本人の手先の器用さには、世界に誇れる建築技術を支えています。

 

また、木造建築の要である木材に関しても、国土面積に占める森林率は、国連食料農業機関が公表しているデータでは日本の約7割は森林で、森林のイメージが高い地域スウェーデン等に次いで世界第3位の森林大国でもあります。

 

日本の森林資材はその約6割を「人工林」が占めているのをご存知でしょうか?

 

また、森林資源の蓄積量は毎年増加しており、その多くが戦後に植えられた人口林の成長によるものです。

 

現在、成長したこれら人工林の多くが木材として利用可能になっているのにもかかわらず、外国産木材の輸入量の増加、木を使用しない構法、新素材の台源もあってか、林業の生産性の低下によって国産材供給量は国内全体における木材需要量の3割しか使われていないのが現状です。

 

映画にもなってはいますが、育てる必要がある林業が現状破滅的な状況にあることは、一般の方々は全く知りませんし、興味がないのが現状です。

 

今一度、日本が世界に誇る木造建築の為にも、日本の森林を維持すること、そして木材として使用できる様に、私達、専門家に限らず、国民のひとりひとりが、解決の糸口を見つけることがこれからは重要なのではないかと思います。

 

ちなみに、木の寿命はどのくらいだと思いますか?

 

樹齢100年の国産の桧(ヒノキ)の場合、伐採されてから100年後にもっとも強度が増しているとの研究報告がありますが、木材の強度は200年~300年は変わらないと言われています。

 

木材住宅だと心配。なんて声も聞こえることがありますが、木の寿命の観点から考えると心配は全くいりません。

しっかり使えば、生きている限りしっかり私達を支えてくれるのが「木」です。

 

ただ、木材も強度は落ちていきます。

やがて時が経ち木材の強度が落ち、寿命は800年~1200年後と言われています。

 

よく勘違いされるのが木を木材として使用するには、伐採してすぐに使えるわけではありません。

 

ある程度、乾燥が必要です。

ひと昔前は自然乾燥には1~2年はかかると言われていました。

 

山で伐採を行ってから、山で木を予備乾燥させるなどして、いくつかの工程と自然乾燥を繰り返し、木材として使用できる状態になります。

 

これらを天然乾燥材、自然乾燥材、AD(エアドライ)材と呼び、現在でも普通に流通しています。

 

しかし、現在は、機械で強制的に乾燥を行い、伐採からたった3日~10日ほどで出荷されていることが多くなっています。

 

乾燥方法は、低温、中温、高温乾燥などがあり、これらは強制乾燥材、人工乾燥材、KD(キルンドライ)材と呼ばれています。

 

現在、ハウスメーカーをはじめ、ほぼ全ての建物がこのKD材を使用していると思われ、見た目には綺麗な表面の割れていない材などの多くがこれにあたります。

 

年月をかけて自然に乾燥させた木材を使うことは、納期、コスト等の問題から供給が困難と思われ、人工的に木材を乾燥させて使用するようになりました。

 

時間短縮のため木材を高温などで強制的に人工乾燥させるとどうなるのか?

 

それは、見た目には割れていない柱でも、内部割れを起こしている場合もあること。

木の強度や寿命に密接にかかわっている木材の成分変化が起こり、木材の色や香り、強度や性質を低下をさせる原因にもなります。

 

人工乾燥材と天然乾燥材とで、強度の比較実験をした結果、強度は天然乾燥材の半分程度しかないという試験データもあるくらいです。

 

こうした人工乾燥材の寿命が30年前後と言われ、これが今の住宅の寿命は持っても「30年」と言われている要因かもしれません。

 

◇土の調湿性能

土は調湿に優れている性質を持ちます。

土を使うことで室内は室外と比べて湿度変化が少ないのも特徴です。

 

さらに室内の湿気も調整しています。

土の壁は、夏場の余分な湿気を取り、さらりと涼しく感じ、冬場は夏場に溜めた湿気をゆっくりと放出し、体感温度を上げ暖かく感じます。

 

冬場といえども適度に湿気の吸放出をしているので、窓ガラスなどにつく、結露対策にも大きく貢献できます。

湿気が溜まりにくいので、ダニやカビなどの発生にも効果があると言われています。

 

◇国産材は高くない

同じ木でも性質も特性も違う、木であって木でない木材が市場に多く存在します。

一般的に、天然乾燥材は高いと思われているのが現状です。

しかし、一般的な戸建ての木造住宅の構造材に必要な金額割合は、総建築費の10%も満たしません。

 

仮に1000万円の建築費とし、構造材料費が多くみて100万円として、KD材からAD材に変更した価格を2割増しとしても差額が20万円。

 

全体の建築費からするとほんの微々たる金額で、耐久性と性質が格段にアップします。

 

◇蓄熱性能

冬場に室内を暖めた時に土がその熱を蓄えます。

一旦暖まれば冷めにくい性質を持つ土は、今度は熱を放出していきます。

その為、部屋の中を一定の温度に保つことに関してはとても優れているのです。

 

◇遮音性能

土自体の多孔質の性質と重さ、そして壁内に微量の空気を含むつくりから、土壁は高い遮音効果が期待できます。

外部の音、そして二階の足音なども軽減してくれます。

 

 

まとめ

現在の自然素材が悪いというわけではありません。

間違った知識で、使用してしまうと思わぬトラブルに繋がったり、望んでいた性能が発揮できない可能性があります。

このように住宅は、材まで追求すると終わりがありません。それが楽しみの一つでもあります。

自分自身のこだわりなどと照らし合わせつつ、内部の「材」について一度考え、自然素材の本来の意味に触れ、住まいの住む事を楽しんでいただければと思います。

 

 

 

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